嫌われ松子の正月
2006嫌いな事への挑戦のスタート
本日、2007年、1月2日。
太郎子と次郎子を連れて、北海道の田舎の実家に帰省して4日目を迎える。
さて、20代、元旦に開いている居酒屋を探してまで行っていた高校の仲間との飲み会も、30代になると、元旦を避けるようになり、2日に集まるようになった。
今年も私は、2日には出かける気満々でいた。
ところが、『40』の声を聞くと、みんな急に落ち着いてしまうものなのだろうか。(40、、、うわー、嫌な響き)
普段なら「帰って来てんのー」と、馴れ合い口調でかかってくる電話も、今年は鈍いというより、はっきり言ってかかって来ていないではないか。
かといって、私は自分からかけるタイプでもない。
よく、自分が帰って来たからと言って、自分のために沢山の人を集める人がいる。
いろんな意味で、すごいな!と思う。
だが、往々にして自信過剰な人が多い。
だからと言って、みんながかかってくる電話を待っていたのでは、始まるものも始まらない。
恋愛と同じだ。
『みんなに会えば、ホノルルマラソンの話が自慢出来たのにな?。
きっと、目ん玉飛び出すに違いないのにな?。』
と、心の中で想像している自分も何とも滑稽である。
しかし、どうやらそんな自慢もできずに、明日、札幌に戻る事になってしまいそうな気配だ。(ついていない人生)×(孤独)=私 みたいな方程式は普通なので、今更驚きはしないが、40歳の誕生日が近い事が、虚無感を増している事は間違いない。
私の会社はそれほど大きくも小さくもない、札幌の芸能プロダクション事務所だ。
登録している人達の中からスーパーのチラシのモデルから地方局のテレビレポーターを斡旋している。
以前、育て上げたイケメン少年がオーディションでアイドルグループに入り、レコード大賞新人賞を獲ったことだけが自慢だ。
私はそこのプロデューサーと言う名の雑用係をしている。
その会社のスタッフから大晦日に、いきなりメールが入った。
男の歳は、30代前半。
パソコンいじるのが趣味で、それをそのまま仕事にしている。
ところが、過去は有名なホストだったらしいから、相当に何かで屈折したに違いない。
とにかく私が把握しているこの男は、人と話さない。
たばこ以外、口を開かない。
めったに立たない。
だから、歩いている所も、殆ど見た事がない。
そして、私とは会話しない。
私には笑顔を見せない。
そんな男のメールはこんな内容だった。
「関係ないですけど、僕、昔、ビルの階段や公園でブレイクダンスしてました。」
ぶっはー。
私にとっては、年末のお笑い番組をはるかに超えていたほどの衝撃だった。
私はこう返信した。
『うさぎが鳴きました。
ギャハハーギャハハーと鳴きました 。』
「そんなに元気に鳴くうさぎがいるのですね。
関係ないですが 、学生の頃のボウリングの最高スコアは、280ちょっとでした。」
メールでもあまりコミュンケーションが取れない…脈略が全くない。
それにしても巷では聞いた事のないハイスコア。
どおりで人を馬鹿にしているわけである。
『き○がいちゃんですね。。。。』
よく分からないが、これは彼にとっての年末の挨拶だったのだろうと、私は解釈した。
元旦の夜、どうにも刺激足らずになった私は、「よし、カラオケに行こう!」と、行動に出た。
実家の近くに、セガが出来たのである。
1年前の私であれば、当然ながら車で行く距離である。
「そんな私が懐かしいわー」と思いながら歩いた。
2分20秒で着いた。
「会員証はお持ちですか?」
「いいえ初めてです。」(こういう時、私はとても謙虚である。)
「何名様ですか?」
「1人です。」(こういう時、私はとても爽やかである。)
恥ずかしい顔は厳禁だ。
同情されてしまったらアウトだからだ。
いかにも「歌を職業」にしているかのように見せれば、1人カラオケも納得してもらえるだろう。
「元旦から、歌わなきゃならないのだから、実は辛いのよ」モードを醸し出せば、完璧だハハ。
しかも、歌っている所は、誰にも聴かれないのだから、音痴であろうがなかろうが、そこの所までは好き放題に自分で演出できるわけだ。
そして、お部屋に案内してくれる店員さんの後を付いて行く時の私は、たぶん誰が見ても可愛い。
プラス、どこか運動会の行進のように、店員さんの後を付いて行っている私がいる。
いわゆる、わくわくさを隠しきれてないに違いない。
最後に、椅子に腰掛け、店員さんに飲み物を聞かれると、本来の上品さを醸し出し、「じゃあ、ビールで」と、得意の18番の表情で微笑みかける。(18番、、、、死語かもしれない。)
このような展開を踏みながら、私は、実は、一人カラオケを札幌でも実践している。
身内以外は知らない事実である。
いや、そんな小細工な演出に、私が全エネルギーをかけている事は、身内さえも知らない。
歌い終わって、部屋を出て会計する時には、また2回目の難関を突破しなければならない場合が多い。
店員さんが、最初の人と代わっている事が多いからだ。
その人に『えっ、この人、1人だったの?3時間も?』と、思われるからだ。
この日は、正月料金で妙に高く感じ、2時間で退室した。
時刻は、まだ21時。
カラオケを出た私は、一人、ベンチに座って、ふと首を左に向けた。
すぐ横に、ボウリング場があった。
ボウリングのピンが次々と倒れる音。
ガヤガヤとした楽しそうな歓声。
盛り上がってやっている風景が、目の悪い私にぼんやり見える。
ボウリング。。。。
1人で・・・ 危ない危ない、さすがに自分にブレーキをかけた。
自分のためではない。
両脇のレーンの人に、『同情』という気遣いをさせるのが元旦から申し訳ないからだ。
申し訳ない申し訳ないと思って、1人で投げ続けるのも、忍びない。
しかも、私の120そこそこの実力では、どこから見てもボーラーには見えない。
カラオケと違って「元旦から、投げなきゃならないのだから、実は辛いのよモード」は、醸し出せない。
諦めて、帰宅した。
帰りは、痴漢に襲われないように、テキパキ歩いたせいか、1分50秒で着いた。
ところが、ふと思ってしまった疑問。
ボウリングのパーフェクトスコアって、200じゃないか?? 280なんて有り得ないだろう。
ぷっ。
あの男、間違っている。
そして、確かめりゃいいものを、280男にメールしてしまった。
『180の記憶間違いじゃないのん?』(私は自信たっぷりだった) 「周りに聞いてみては、いかがでしょう」(冷ややかな返答) 失敗したなと思ったが、3人の男にメールで聞いてみた。
1人目は、昨年、お笑いコンビ『ロンサム ウマ ボーイ』だかを結成して、そのまま芸能界入り出来ると勘違いしている20才の男。
2人目は、元スタッフのおかまっぽい『ルビー』ちゃん。
名付け親は私である。
面接した日に名付けた。
チラシなどの広告制作として働いてもらったが、子どもが出ている広告に「無洗米」を「無精米」と書いて自ら辞職していった。
3人目はTV局の自称、変態プロデューサー。
「ボウリングのパーフェクトスコアって、200?300?どっちだっけ?」
くだらない話ほど、メールというのは、このうえなく便利だ。
1人目の男「僕の最高は180です。」
2人目の男「170前後くらいかしら。」
3人目の男「ハイスコアは160かな。大学の時だね。」
3人が3人、みんな、自分のハイスコアを言ってくる。
『はー? ちゃうちゃう。あんたの最高スコアを聞いてるんじゃないの。パーフェクト、パーフェクト!のスコアを聞いているのよ?。』
3人目の男「あれ、去年はフルマラソンだったから、今年の目標は、ボウリングですか?」
自称、変態プロデューサーである。
んなわけないだろう!!
いったいこの男、どこまで変態なのかは知らない。
しかも、私の持論だが、変態は『変態』と言われる事に、妙な満足感を抱いている人が多い。
というのは、うちのモデルにストーカー行為をして出入り禁止になった自称フリーカメラマン(推定年齢50歳くらい)に、 『松川さん、一度でいいので、耳元で “変態ですね。。。”と、囁いてほしい』と頼まれた事がある。
私は何でも屋じゃなーい!! 世の中変態だらけ。言ったら最後。
こっちが変態の仲間入りである。
結局、300が正しい事は分かった。
ボウリングで、300を目指す。。。?
この私が?馬鹿げている。。。
と思いながらも、ちょっと考えてみてしまうのだから、ノリやすい性格である。
280男からは、それっきりメールはこない。
今年の年末、また何か関係のない話をメールしてくる事を待とう。
いや、1年かけて、私からメールを打ってみるのもいい。
「関係ないですが、私のボウリングの最高は、290です。」と。